2023.09.23 Saturday

もしかすると、回顧展のようなひと区切りなのだろうか? などと思っていると進行形の「現在」を突きつけられた。

『宇川直宏展』

練馬区立美術館 2023.9.17

 

しばらく前からメディアアートや現代美術に食傷気味で、サブカルチャーのムーブメントにも興味を失っていた。だから、宇川直宏が今、何処に居るのか?と気になっていた。

結論めいた事を言ってみると、美術館で回顧展のようなものが企画された事が、既にアーカイブ化の作業に入っているのかと思いながら、それでもずっと彼は「現在」の中に居るのだと思った。

その時々の「現在」を横軸でスライスしたような世界が、時代区分を目印に展示されていた。

時代と並走したメディアは、音楽や映像、演劇、文学を軸に、DJ、流行歌、パンク、マンガ、パフォーマンス、タトゥーなどという夥しくマニアックな細部へと拡散した。そのそれぞれの面白さを拾い上げることにどれだけのエネルギーが必要なのだろうかと、呆然とした。

 

展示してあるアナログのテレビは、同期にズレた不安定が画像やホワイト・ノイズが見える。「ザーッ、ガッガッ、ボツボツ」といったノイズの音も、それを心地よく感じられる年齢になったのかと、不思議な錯覚をする。

 

2010年に水戸芸術館で開催された『リフレクション/映像が見せる"もうひとつの世界”』で、直接お話する機会があった。そのときにDOMMUNEの革新性には感心していたものの、その後にはオンラインイベントも含めて一度も訪れたことがなかった。今回の展覧会で、コロナ禍と言われた数年間にも、彼が切り出す「現在」は蠢き続けていたのだと知った。

 

八代亜紀と佐渡の港でイカを食っている姿が、とても面白いと思う。ひと回りもふた回りもした後にたどり着いた「八代亜紀」というアイコンは、「植木等」のような再評価とも違って、時代の流れを無視し続け、既に「サブカルチャー」の枠などを超えて地域に根を伸ばし続けているように映る。

まさに「現在」リアルタイムで生成されるAIによる画像を合成し、最後の部屋ではそれを「生身の人間が描き直す」と題されていた。その部屋はまだ展示の途中であるという。おそらくどこまでも「途中」であり続けることが予見されていて、そこには何かの作品を鑑賞した時の感動はない。生成という行為は、どこまでも生成という機械的な用語が適しているように、見事でもグロテスクでもないような、中途半端な生成画像をただ、呆然と物量として見つめさせられているような虚無感があった。

おそらく、それが、宇川直宏が居る「現在」をスライスした風景なのだろうと思う。

 

2016.10.25 Tuesday

クリスチャン・ボルタンスキーとChim↑ Pomを同じ日に観る面白さについて

先日、目黒庭園美術館で「アニミタスーざわめく亡霊たち』を観て、その後に新宿歌舞伎町でChim↑ Pomの個展「また明日も観てくれるかな?」を観た。
旧朝香宮邸で、休日の庭園を楽しむ家族を横目に、銀色のエマージェンシー・ブランケットで覆われたナチスの没収品の山(中身が本当に古着の山であるかどうかは見えないのだが)をみつめる、巨大にプリントされた眼差しを観る。干し草が敷き詰められたフロアーにある大きなパネルには、はじめは海の景色かと思った、世界で最も乾燥した砂漠と、香川県の夏らしい森林が映し出され、鉄器で作られた風鈴が揺れている。
見えないものが見えてくる時、ボルタンスキーのインスタレーションは、立ち止まる時間と作品と対話する静寂さを誘う。
過去と対話する時間は、重苦しく、それでも心地よい。その対話が現在との通路になっている気がする。

歌舞伎町の喧騒のなか、何度か通ったはずの街の一角の古びたビルにその入口はあった。学生時代にはライブ会場として通ったアシベ会館の直ぐそば。
取り壊される古いビルは、歌舞伎町の幾つもの記憶を丸抱えしていたかのような外観を見せる。どれだけ変わったのかわからない各店舗の看板。周囲は高層化して、すぐ裏はゴジラがいる「TOHOシネマズ」のビルだ。かつて「コマ劇場」だったころ、ここではどんな音が聞こえたのだろうか? どんな人が、この3階の雀荘に通ったのだろうか? Chim↑ Pomが見せつけるどこを掘っても「現在」が出てきそうな空間は面白い。しかし、どこまでも現在。更新し続けるただの「現在」は、こうして見せつけられることで、かろうじて「現在」を演じきって葬られるように思う。そうでなければ、あっさりと「過去」になってしまうような、一過性の現在の連続が、束になってそこに積み重ねられていた。
http://www.cinra.net/interview/201610-chimpom

2014.09.11 Thursday

日向寺太郎さんと飲んだのは、とても面白かったのだけど、、、

 昨日は日向寺太郎さんと二人で酒を飲んだ。正確にはホッピーだったけど。ここ数年は、日向寺さんの同期の映画監督谷口正晃さんと波多野哲朗先生を交えて、年に一度か二度4人で会っていた。二人で飲むのは、もしかすると初めてか、十数年ぶりかもしれない。日向寺さんと飲む時はいつも、かなりディープな映画の話をすることになる。そのくらい、彼の映画にたする姿勢は一貫していて、力強い。先日、彼の新作ドキュメンタリー『魂のリアリズム 画家 野田広志』を見たばかりだったので、その映画について、いろいろと教えてもらった。僕自身も映画を見た直後に、その感想を読んでもらっていた。

池袋の飲み屋は、有楽町の「日の基」を思わせる昭和臭があふれる店だった。こういう店は、ひとりで来る常連と会社帰りのオヤジ二人組が多くて、なかなかいい。僕らも十分にオヤジ2人組だった。長いカウンター席の頼りない丸イスに座ると「これ、佐藤さんに渡そうと思って、、」と、『魂〜』の試写会の時に配ったプレスリリースをくれた。日向寺さん本人の文章と、加藤典洋さんのコメントが載っていた。老眼用の眼鏡を鞄にしまっていたので、さっと見ただけで、「あとで、ゆっくり読みます」と言って鞄にしまった。今、それを読んでいた。僕は日向寺さんに送った文章の中で、「映画を見ながら『マルメロの陽光』を思い出していた。」と書き、その映画についても少し書いていた。すると日向寺さんが、実はこの映画は『マルメロの陽光』を見たのがきっかけだったんです」という。僕は思わず、「えっ、本当?」と言ってしまった。僕は、本当に『マルメロの陽光』みたいな、静かで美しい映画だと思って、そういうふうに書いたのだった。その偶然は面白いと思ったし、彼が「自分なりの『マルメロ〜』を撮りたい」と思って作った映画だと言うことがうれしかった。その後、話は、ビクトル・エリセやアレクサンドル・ソクーロフやら、水俣やら、三里塚やら山形やらの話に発展して、とても面白かった。ところが、今朝、プレスリリースを読んでみたら、日向寺さんの文章で、『マルメロの陽光』を見たことが制作のきっかけだったと、その経緯がとても細かく書いてあった。なんだかものすごく恥ずかしくなった。監督が『マルメロの陽光』を観たことが制作の動機だった、と言っているのに、それを見て、後から「『マルメロの陽光』を思わせる」などと書いたら、馬鹿みたいだ。あ〜恥ずかしい。監督のコメントはHPなどできちんとチェックするべきですね。反省しきりです。
2012.09.17 Monday

廃校と古民家〜再生というよりは延命かもしれないけれども〜

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2012

2012910日〜12

収穫間近の稲田の黄色が一層美しく、緑によく映えている。同時にそれは、直近に迫った苦役を想像させる。狭く高低差のある小さな区画は、手刈りの苦労を余儀なくされるのだろう。道路脇には、稲の刈り遅れのないように注意を促す看板が、あちこちに見られた。収穫の時期が少しでも遅れると、米が乾いて割れるなど、品質に大きく影響するそうだ。地元のテレビニュースでも、時期を逃さないように注意深く伝えていた。短い期間で集中的にこれらを刈り取るのはどんなに骨の折れる作業だろうと、美しい稲田を眺めて思った。そして、過ごしやすい季節のすぐ後には、厳しい冬が待っている。

Calendar
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2024 >>
翻訳ツール
Facebook svp2ページ 更新情報
Selected Entries
Categories
Archives
Recent Comment
Recent Trackback
Recommend
戦うビデオカメラ―アクティビズムから映像教育まで
戦うビデオカメラ―アクティビズムから映像教育まで (JUGEMレビュー »)
佐藤 博昭
佐藤博昭、渾身の一冊です。個人映像の展開へのヒントになれば…。
Recommend
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力 (JUGEMレビュー »)
佐藤 忠男,吉岡 忍,森 まゆみ,池内 了,堀田 泰寛,小泉 修吉,矢野 和之,佐藤 博昭
Recommend
Recommend
映画は世界を記録する ドキュメンタリー再考(日本映画史叢書 5)
映画は世界を記録する ドキュメンタリー再考(日本映画史叢書 5) (JUGEMレビュー »)

佐藤博昭が「ビデオ・ジャーナリズムの現在」の項を担当しています。
Recommend
スーパー・アヴァンギャルド映像術―個人映画からメディア・アートまで
スーパー・アヴァンギャルド映像術―個人映画からメディア・アートまで (JUGEMレビュー »)
佐藤 博昭, 西村 智弘, 「Cine Lesson」編集部
SVP2を主催する佐藤博昭の共著本。
Links
Profile
Search this site.
Others
Mobile
qrcode
Powered by
30days Album
無料ブログ作成サービス JUGEM