2005.11.29 Tuesday
アフガニスタン映画祭
中沢あきさんによるドイツからの国際映画祭のリポートに続いて、大田区池上会館で行われた『アフガニスタン映画祭』について報告します。我ながら、中沢リポートとは素敵なコントラストをなしていると思っています。
映画祭は11月26、27日の2日間、10作品によるプログラムが両日同じ内容で上映されました。僕が観たのは26日で、この日にチケットを買うと、仮に途中で帰っても翌日もその続きを観ることができるという、2日間出入りOKの良心的チケットです。当日1200円のところを学生と一緒に20人で行ったため、さらに割引料金で入場することができました。この日だけで観てしまわないと翌日は来られないことがわかっていたのですが、2作品を残して降参しました。映画がダメだったわけではなくて、考えさせられることも多く8本が鑑賞の限界だったのです。
ちょうどひと月前の10月26日に、この映画祭の主催者NPO法人クロスアーツの幕内弘司さんと村山達哉さんが、僕のいる学校まで訪ねてこられ、映画祭のことを知らせて頂きました。「クロスアーツが大田区のNPOでもあるし、映画祭もなんとしても大田区で開催したかったのです」と、静かな口調の中にも力強い意欲を感じたのでした。池上会館というのは、本門寺というこの界隈では有名な大きなお寺のそばにあります。桜がきれいなことと力道山の腕組みをした胸像があることでも知られています。東急の池上駅から少し歩くと道路脇には和菓子屋やら、煎餅屋やら仏具屋が並んでいます。池上会館では『アフガニスタン映画祭』の他にいろんなセミナーを行っていたようです。「生き方を考える」とかそんなタイトルもあった気がします。
映画祭で上映されたのはここ数年に制作された短編映画が中心でしたが、この映画祭自体の動機となった『カブール・トライアングル』が2005年に制作された90分の長編でした。クロスアーツは天理大学と一緒にこの作品を支援し、協働制作という形をとっています。先述の村山さんは音楽家でもあり、全編の音楽を担当しています。制作機材は天理大学の提供で、編集などポストプロダクションもクロスアーツによって日本で行われたようです。ほぼ30分の3作品で構成されていて、それぞれの監督はカブール大学の先生です。この作品は3作品の構成も興味深く、見応えのある作品でした。「生計を立てる人々」は文字通り人々の生活の手段を映し出したドキュメンタリーです。市場や通りでものを売る人々、カメラを取り囲んで雇用状態の不満をぶつける労働者、パキスタン人を好んで雇用する建築会社の親方などの話の中に、収入や生活費などの具体的な数字も出てきます。映画は次第にひとりの少年にフォーカスし、貧しい生活の実態がわかる。週に50アフガニで月に200アフガニが少年の収入だったと記憶しているのだけれども、どうやら月30円くらいしかもらえないようだった。貧困に苦しむ国では小さな子供も様々な仕事をしているのですが、この映画でもそうした実態が見えてきます。少年の母親は借金の形に娘を売ってしまったと語ります。いつになったらこんなことが無くなるのでしょうか?
一方、「刻の中の女性」では、タリバンから解放された後の力強い女性達が描かれています。女性ジャーナリストも、解放後の選挙で唯一だった女性大統領候補も、次の時代への新しいエネルギーであることは間違いなく、希望の象徴として続いていくことを願うのですが、しかしここで描かれる選挙の様子や女性参加の実態が、どこか一部のプロパガンダのようにも見えてしまいました。とてもうまくいったような描写は、実は少し半信半疑で観ていました。おそらく都市部の描写だけだったからではないかと思います。
3つ目のパートは「偽装結婚の果て」というドラマで、事実に基づく再構成ドラマのような体裁でした。ジャーナリズムを専攻する女子学生と悲劇の連続で泣き続ける女性のコントラストが、映画全体の多様な問題とその解決されない部分、開かれた部分との差を象徴しているようにも思います。アフガニスタンの現在を知ると同時に、混沌とした実情が映画の構成そのものに現れていて、面白い作品でした。
他の作品についていえば、国営のアフガンフィルムは78年の解放の後の話だろうと勝手に思っていた僕にとっては、王政時代に制作された2種類(英語版、ダリ語版で撮影日や対象も別物)の『ブズカシ』(1976年)が興味深い作品でした。子山羊の死体を集団で奪い合うという伝統的な騎馬競技の記録フィルムですが、英語版では「子牛」といっていたのは、何か特別な意味があるのだろうか?
ひとまずはここまでにします。
映画祭は11月26、27日の2日間、10作品によるプログラムが両日同じ内容で上映されました。僕が観たのは26日で、この日にチケットを買うと、仮に途中で帰っても翌日もその続きを観ることができるという、2日間出入りOKの良心的チケットです。当日1200円のところを学生と一緒に20人で行ったため、さらに割引料金で入場することができました。この日だけで観てしまわないと翌日は来られないことがわかっていたのですが、2作品を残して降参しました。映画がダメだったわけではなくて、考えさせられることも多く8本が鑑賞の限界だったのです。
ちょうどひと月前の10月26日に、この映画祭の主催者NPO法人クロスアーツの幕内弘司さんと村山達哉さんが、僕のいる学校まで訪ねてこられ、映画祭のことを知らせて頂きました。「クロスアーツが大田区のNPOでもあるし、映画祭もなんとしても大田区で開催したかったのです」と、静かな口調の中にも力強い意欲を感じたのでした。池上会館というのは、本門寺というこの界隈では有名な大きなお寺のそばにあります。桜がきれいなことと力道山の腕組みをした胸像があることでも知られています。東急の池上駅から少し歩くと道路脇には和菓子屋やら、煎餅屋やら仏具屋が並んでいます。池上会館では『アフガニスタン映画祭』の他にいろんなセミナーを行っていたようです。「生き方を考える」とかそんなタイトルもあった気がします。
映画祭で上映されたのはここ数年に制作された短編映画が中心でしたが、この映画祭自体の動機となった『カブール・トライアングル』が2005年に制作された90分の長編でした。クロスアーツは天理大学と一緒にこの作品を支援し、協働制作という形をとっています。先述の村山さんは音楽家でもあり、全編の音楽を担当しています。制作機材は天理大学の提供で、編集などポストプロダクションもクロスアーツによって日本で行われたようです。ほぼ30分の3作品で構成されていて、それぞれの監督はカブール大学の先生です。この作品は3作品の構成も興味深く、見応えのある作品でした。「生計を立てる人々」は文字通り人々の生活の手段を映し出したドキュメンタリーです。市場や通りでものを売る人々、カメラを取り囲んで雇用状態の不満をぶつける労働者、パキスタン人を好んで雇用する建築会社の親方などの話の中に、収入や生活費などの具体的な数字も出てきます。映画は次第にひとりの少年にフォーカスし、貧しい生活の実態がわかる。週に50アフガニで月に200アフガニが少年の収入だったと記憶しているのだけれども、どうやら月30円くらいしかもらえないようだった。貧困に苦しむ国では小さな子供も様々な仕事をしているのですが、この映画でもそうした実態が見えてきます。少年の母親は借金の形に娘を売ってしまったと語ります。いつになったらこんなことが無くなるのでしょうか?
一方、「刻の中の女性」では、タリバンから解放された後の力強い女性達が描かれています。女性ジャーナリストも、解放後の選挙で唯一だった女性大統領候補も、次の時代への新しいエネルギーであることは間違いなく、希望の象徴として続いていくことを願うのですが、しかしここで描かれる選挙の様子や女性参加の実態が、どこか一部のプロパガンダのようにも見えてしまいました。とてもうまくいったような描写は、実は少し半信半疑で観ていました。おそらく都市部の描写だけだったからではないかと思います。
3つ目のパートは「偽装結婚の果て」というドラマで、事実に基づく再構成ドラマのような体裁でした。ジャーナリズムを専攻する女子学生と悲劇の連続で泣き続ける女性のコントラストが、映画全体の多様な問題とその解決されない部分、開かれた部分との差を象徴しているようにも思います。アフガニスタンの現在を知ると同時に、混沌とした実情が映画の構成そのものに現れていて、面白い作品でした。
他の作品についていえば、国営のアフガンフィルムは78年の解放の後の話だろうと勝手に思っていた僕にとっては、王政時代に制作された2種類(英語版、ダリ語版で撮影日や対象も別物)の『ブズカシ』(1976年)が興味深い作品でした。子山羊の死体を集団で奪い合うという伝統的な騎馬競技の記録フィルムですが、英語版では「子牛」といっていたのは、何か特別な意味があるのだろうか?
ひとまずはここまでにします。
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