2005.12.04 Sunday
山田太一のドラマ
テレビドラマをきちんと見ることからずいぶんと遠ざかっていたのですが、山田太一の脚本であれば、僕は世代的に反応してしまいます。何かあるのではないかという期待は、やはり昨今、話題のドラマを、数分見ただけで退屈してしまう世代の、わずかな希望でもあるのでしょう。『終わりに見た街』を見終えて思い出すことは、20代のぼくらが見てきた山田太一は、常に「エッジ」を描いてきたはずであったし、それは言葉の比喩としてのエッジもあり、実際の舞台としての多摩川河岸や、三流大学の学生たちや、社会の中で時代遅れになる初老の戦中世代の男というエッジであったはずです。山田太一がこの『終わりに見た街』のように、エッジではなくど真ん中を描かなければならなかったのはなぜか? この国の事態はドラマで描かれたように、歴史の悲劇と併走しつつあり、わかりやすいテレビドラマにしなければならないほど深刻なのだと思いました。
柄谷行人が明治・昭和平行説ということ言っていると、僕は大澤真幸の『戦後の思想空間』の中で知りました。明治と大正を足せば約60年、そこから昭和が始まり約60年周期で同じようなことが繰り返されているというわけです。明治10年に起こったことと、昭和10年に起こったことが似ていると言うことだけでなく、60年という大きなうねりは世界的にも根拠ある周期であるらしい。沖縄復帰の1972年を60年さかのぼると明治の不平等条約改正に重なるとか、1973年の浅間山荘事件の約60年前には大逆事件が起こっているとか、オウム真理教の地下鉄サリン事件は60年さかのぼると大本教のクーデター計画という冤罪が重なるとか、偶然にしては気持ち悪い類似は確かにあります。2001年のアメリカの同時多発テロは、しきりにパールハーバーという言葉を持ち出しましたが、60年前の1941年はまさにパールハーバーの年、開戦の年です。1945年、敗戦の60年後は2005年です。
山田太一が今、この時代を1944年に重ねたのは、時代の流れを見れば解ります。しかし、このドラマが、ある家族と友人とのタイムリスリップという、一見唐突な物語を語りながら、実は誰ひとりタイムスリップなどしていないことに、僕は嘘でも動揺しなければなりません。前半の正直言って陳腐とも思われる物語の展開は、まさしく時代錯誤の『YAMATO』や、何とかのイージスという映画が国策映画のように作られていることや、『戦国自衛隊』などをまじめにリメイクしてしまう狂った感性を、同じ土俵で皮肉っているように思います。もちろん、このドラマを見て、いったんタイムスリップした家族が、空襲の衝撃で再び現代に戻ってきたなどと誤解することがあれば、見事な失敗作だと言ってしまえばいいことです。その程度のリテラシーしか育ててこなかったテレビドラマに、もう何も言うことはありません。しかし、残念なのは、山田太一がこの程度の話を作らなければならないほど、日本は愚かな国なのだと言うことです。
柄谷行人が明治・昭和平行説ということ言っていると、僕は大澤真幸の『戦後の思想空間』の中で知りました。明治と大正を足せば約60年、そこから昭和が始まり約60年周期で同じようなことが繰り返されているというわけです。明治10年に起こったことと、昭和10年に起こったことが似ていると言うことだけでなく、60年という大きなうねりは世界的にも根拠ある周期であるらしい。沖縄復帰の1972年を60年さかのぼると明治の不平等条約改正に重なるとか、1973年の浅間山荘事件の約60年前には大逆事件が起こっているとか、オウム真理教の地下鉄サリン事件は60年さかのぼると大本教のクーデター計画という冤罪が重なるとか、偶然にしては気持ち悪い類似は確かにあります。2001年のアメリカの同時多発テロは、しきりにパールハーバーという言葉を持ち出しましたが、60年前の1941年はまさにパールハーバーの年、開戦の年です。1945年、敗戦の60年後は2005年です。
山田太一が今、この時代を1944年に重ねたのは、時代の流れを見れば解ります。しかし、このドラマが、ある家族と友人とのタイムリスリップという、一見唐突な物語を語りながら、実は誰ひとりタイムスリップなどしていないことに、僕は嘘でも動揺しなければなりません。前半の正直言って陳腐とも思われる物語の展開は、まさしく時代錯誤の『YAMATO』や、何とかのイージスという映画が国策映画のように作られていることや、『戦国自衛隊』などをまじめにリメイクしてしまう狂った感性を、同じ土俵で皮肉っているように思います。もちろん、このドラマを見て、いったんタイムスリップした家族が、空襲の衝撃で再び現代に戻ってきたなどと誤解することがあれば、見事な失敗作だと言ってしまえばいいことです。その程度のリテラシーしか育ててこなかったテレビドラマに、もう何も言うことはありません。しかし、残念なのは、山田太一がこの程度の話を作らなければならないほど、日本は愚かな国なのだと言うことです。
- コメント
- コメントする
- この記事のトラックバックURL
- トラックバック
- この本から始めてみませんか?日本人として、必読書だと思います
- 先日、終戦60年を記念した山田太一ドラマスペシャル「終わりに見た街」 について触れた。 その後、色々な方のご意見などを拝読させていただいた。 先の大戦について、さまざまな考え方が存在している。 大切なのは、歴史の流れの中で、どのような状況下において、
-
- 「感動創造カンパニー」ダスキン城北の部屋!仕事も人生も感動だっ!
- 2005/12/06 12:18 PM
- Calendar
-
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
- 翻訳ツール
- Facebook svp2ページ 更新情報
- Selected Entries
-
- 山田太一のドラマ (12/04)
- Categories
- Archives
-
- March 2024 (1)
- February 2024 (6)
- January 2024 (2)
- December 2023 (1)
- November 2023 (1)
- October 2023 (3)
- September 2023 (3)
- August 2023 (6)
- July 2023 (1)
- April 2023 (2)
- March 2022 (4)
- February 2022 (2)
- January 2022 (1)
- October 2021 (1)
- September 2020 (1)
- August 2020 (3)
- March 2020 (1)
- February 2020 (2)
- January 2020 (3)
- December 2019 (2)
- September 2019 (1)
- August 2019 (2)
- July 2019 (1)
- March 2019 (3)
- February 2019 (1)
- January 2019 (1)
- November 2018 (2)
- July 2018 (1)
- June 2018 (1)
- April 2018 (2)
- March 2018 (2)
- December 2017 (1)
- November 2017 (2)
- September 2017 (3)
- August 2017 (1)
- July 2017 (1)
- April 2017 (2)
- October 2016 (1)
- June 2016 (2)
- May 2016 (1)
- April 2016 (1)
- March 2016 (4)
- January 2016 (2)
- August 2015 (3)
- July 2015 (1)
- May 2015 (2)
- March 2015 (5)
- January 2015 (1)
- September 2014 (2)
- August 2014 (1)
- March 2014 (1)
- February 2014 (2)
- January 2014 (1)
- December 2013 (1)
- September 2013 (3)
- August 2013 (3)
- July 2013 (5)
- May 2013 (5)
- April 2013 (4)
- March 2013 (1)
- January 2013 (1)
- December 2012 (1)
- November 2012 (4)
- October 2012 (3)
- September 2012 (7)
- August 2012 (2)
- July 2012 (1)
- May 2012 (2)
- April 2012 (6)
- March 2012 (4)
- February 2012 (2)
- January 2012 (1)
- December 2011 (1)
- November 2011 (1)
- September 2011 (3)
- August 2011 (1)
- July 2011 (3)
- June 2011 (3)
- May 2011 (1)
- April 2011 (4)
- March 2011 (4)
- February 2011 (2)
- November 2010 (3)
- September 2010 (2)
- July 2010 (1)
- June 2010 (1)
- April 2010 (2)
- March 2010 (1)
- February 2010 (1)
- October 2009 (3)
- September 2009 (1)
- August 2009 (1)
- June 2009 (6)
- April 2009 (3)
- February 2009 (1)
- December 2008 (1)
- November 2008 (8)
- October 2008 (1)
- September 2008 (2)
- August 2008 (1)
- April 2008 (3)
- March 2008 (1)
- February 2008 (4)
- December 2007 (1)
- November 2007 (4)
- October 2007 (2)
- September 2007 (3)
- July 2007 (1)
- April 2007 (1)
- February 2007 (3)
- November 2006 (1)
- October 2006 (2)
- September 2006 (4)
- July 2006 (3)
- June 2006 (2)
- May 2006 (1)
- April 2006 (1)
- March 2006 (1)
- February 2006 (2)
- January 2006 (2)
- December 2005 (10)
- November 2005 (6)
- October 2005 (4)
- August 2005 (8)
- July 2005 (4)
- June 2005 (6)
- Recent Comment
-
- 情報を回そう!
⇒ 中沢 (03/31) - 情報を回そう!
⇒ tanaka (03/30) - 第3回恵比寿映像祭
⇒ 中沢 (02/26) - いよいよ間近です。無礼講2006
⇒ オ (09/27) - 佐藤がとうとう狂ったという噂
⇒ 中沢 (08/31) - 市民ビデオの伝道師みたいです
⇒ 高橋 (08/01) - idfa追記ー国の外へ出てみよう!
⇒ 中沢 (12/27) - idfa追記ー国の外へ出てみよう!
⇒ 中沢 (12/27) - idfa追記ー国の外へ出てみよう!
⇒ luke (12/23) - アート&テクノロジーの過去と未来
⇒ 中沢 (12/16)
- 情報を回そう!
- Recent Trackback
-
- 傷ついた人を叱ることー映画「空中庭園」
⇒ 気ニナルコトバ (10/05) - 傷ついた人を叱ることー映画「空中庭園」
⇒ サーカスな日々 (04/27) - 白南準はビデオが登場して50年で亡くなった。
⇒ SoundKraft Blog (01/31) - アフガニスタン映画祭
⇒ 美人健人 .,。・:*:・*キレイなマイニチ*・,。・:*:・゚ (12/28) - アート&テクノロジーの過去と未来
⇒ GOLDENSHIT Blog (12/11) - 山田太一のドラマ
⇒ 「感動創造カンパニー」ダスキン城北の部屋!仕事も人生も感動だっ! (12/06) - アワーミュージック
⇒ アンチハリウッド!な映画部ブログ (10/10) - 山形国際ドキュメンタリー映画祭開催!
⇒ 山形国際ドキュメンタリー映画祭 応援番組 (10/08) - ブログサイト、映像力より
⇒ 映像力 (08/20)
- 傷ついた人を叱ることー映画「空中庭園」
- Recommend
-
シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力 (JUGEMレビュー »)
佐藤 忠男,吉岡 忍,森 まゆみ,池内 了,堀田 泰寛,小泉 修吉,矢野 和之,佐藤 博昭
- Recommend
- Profile
- Search this site.
- Mobile