2006.04.26 Wednesday
傷ついた人を叱ることー映画「空中庭園」
邦画を見る、というよりもいわゆる劇場映画を見る機会がなくなっている私。いちおう映像関係の仕事をずっとしてはいるんですが、いわゆる映画の現場って遠いのです、私からは。同じ映像でもまったく違う世界といっていいくらい。とはいえ、映画を見るとあれやこれや言いたくなってしまうのは性かしら。しかも昔に比べて年々、見る映画について辛口になってしまうのは、自分が厳しすぎるのか、それとも映画製作そのものが力弱くなっているのか…。
ドイツにいるのに邦画がたくさん見られるという不思議かつ貴重な機会をくれるのは、毎年おなじみになりつつある、フランクフルトの日本映画祭、Nippon Connection。この映画祭自体のレポートもしなくっちゃね、と思いつつも、今頭の中に強く残っているのは最終日に見た映画「空中庭園」。
そもそも角田光代の同名小説のタイトルを見たときから惹かれてたものの、読む機会も逃せば映画を見る機会も逃してた。友人が褒めてたからさらに気にはなっていた、どんなもんだろうと思って。
今や徐々にゴーストタウンへと生気を失いつつあるニュータウン。そこに住む、ある「普通」の家族。隠し事は一切しない約束を守る完璧な家族は、やさしいママの理想。サラリーマンのパパは取引先の事務員の女の子と浮気中で、明るい女子高生の娘は孤立してしまう学校にはいかずにラブホテルにいる。中学生の真面目な弟は、真面目に父親の浮気相手を家庭教師として家に連れてくる。ママは理想の家族を必死で守ろうとするけれども、それは彼女の母親に対するトラウマから逃げるための手立てでもある。
いっけん穏やかな「普通」の家族に潜む、「ありふれた」秘密を暴きつつ、家族って何?幸せって何?働き過ぎのサラリーマン社会や親子関係の難しさ、理想の押し付け合い、現代の子供の孤独感、を描く、だけの映画だったら、なるほどね、また最近よく登場するテーマね、と思っただけだっただろう。
実際、この映画祭でも似たようなテーマを扱った作品は多かった。ひきこもり、とか、社会からの孤立、とか、あるいは家族関係におけるトラウマ、とか。
「空中庭園」がすがすがしかったのは、たとえトラウマを持とうが何だろうが、自分自身が先を向かなければ何も見えてこない、ということをきちんと言うからだ。たとえ、この社会が雑でいびつなものだろうが、そこに生きる限りは生き抜いていくしぶとさが必要であることも。
母との関係をひきずるママに息子が言う、「強迫観念に捕われると、現実が見えなくなる」
ママのことを愛しているかと娘に訊かれたパパが言う、「家を買って、ローンや養うために仕事探して頭下げて働いて、親にもすがって金を借りて、そんなこと、愛がなかったらできるかいな」
傷ついた人を慰めることは簡単だ。でも傷ついた人を叱ることはそうなかなかできることじゃない。でも傷ついて弱った人に本当に必要なのは、その後自分自身でまた再び生きていくことができるようにすることなのだ。よくある話、怪我をした鳥を助けてやっても、単に甘やかすと森に戻れなくなるのと同じこと。
慰めるだけの小説や映画や歌が溢れていると思う。
そんな傷の舐め合いみたいな現代で違和感を感じている人には、「空中庭園」はお勧めしたい。
映像表現としては個人的にちょっといただけないところもあったけれども、元の小説なのか(まだ読んでいないので)、脚本がよかったのか、いずれにしても誰も言わないことをズパッと言った物語だと思った。
親を憎むことなんて、そんなにおかしいことじゃない。人との関係なんて、近ければ近いほど、濃くて激しい感情が交差する。「普通」が何かという定義は難しいが、その普通から外れることを優しく認めてあげようという今の社会の風潮にも、私はどこか落とし穴があると思っている。トラウマを持つことはそれが強かれ弱かれ、別に異常なことでもなんでもなくて、それこそ「普通」のことだと思うのだ。
だからこそ、前日に見た「やわらかい生活」(原作は絲山秋子の「イッツオンリートーク」)には全然共感できなくて、以前見た映画ではいい女優だなと思った寺島しのぶも、ただの我まま女にしか見えなかったのだった…。
残念。舞台となった蒲田の町は私も大好きなんだけどね。
くたびれた安物のピンクのコートはママの理想の現実そのままで、なんだか薄っぺらくてさみしいけれど、でもそれでもパパの言うところの愛はそんな甘いピンク色のようなもので、それはそれで悪いものなんかじゃなく、この家族をちゃんと繋いでいたりするのだ。決してママの理想だった完璧なものではなくても、それでもいいじゃないか、と。
ドイツにいるのに邦画がたくさん見られるという不思議かつ貴重な機会をくれるのは、毎年おなじみになりつつある、フランクフルトの日本映画祭、Nippon Connection。この映画祭自体のレポートもしなくっちゃね、と思いつつも、今頭の中に強く残っているのは最終日に見た映画「空中庭園」。
そもそも角田光代の同名小説のタイトルを見たときから惹かれてたものの、読む機会も逃せば映画を見る機会も逃してた。友人が褒めてたからさらに気にはなっていた、どんなもんだろうと思って。
今や徐々にゴーストタウンへと生気を失いつつあるニュータウン。そこに住む、ある「普通」の家族。隠し事は一切しない約束を守る完璧な家族は、やさしいママの理想。サラリーマンのパパは取引先の事務員の女の子と浮気中で、明るい女子高生の娘は孤立してしまう学校にはいかずにラブホテルにいる。中学生の真面目な弟は、真面目に父親の浮気相手を家庭教師として家に連れてくる。ママは理想の家族を必死で守ろうとするけれども、それは彼女の母親に対するトラウマから逃げるための手立てでもある。
いっけん穏やかな「普通」の家族に潜む、「ありふれた」秘密を暴きつつ、家族って何?幸せって何?働き過ぎのサラリーマン社会や親子関係の難しさ、理想の押し付け合い、現代の子供の孤独感、を描く、だけの映画だったら、なるほどね、また最近よく登場するテーマね、と思っただけだっただろう。
実際、この映画祭でも似たようなテーマを扱った作品は多かった。ひきこもり、とか、社会からの孤立、とか、あるいは家族関係におけるトラウマ、とか。
「空中庭園」がすがすがしかったのは、たとえトラウマを持とうが何だろうが、自分自身が先を向かなければ何も見えてこない、ということをきちんと言うからだ。たとえ、この社会が雑でいびつなものだろうが、そこに生きる限りは生き抜いていくしぶとさが必要であることも。
母との関係をひきずるママに息子が言う、「強迫観念に捕われると、現実が見えなくなる」
ママのことを愛しているかと娘に訊かれたパパが言う、「家を買って、ローンや養うために仕事探して頭下げて働いて、親にもすがって金を借りて、そんなこと、愛がなかったらできるかいな」
傷ついた人を慰めることは簡単だ。でも傷ついた人を叱ることはそうなかなかできることじゃない。でも傷ついて弱った人に本当に必要なのは、その後自分自身でまた再び生きていくことができるようにすることなのだ。よくある話、怪我をした鳥を助けてやっても、単に甘やかすと森に戻れなくなるのと同じこと。
慰めるだけの小説や映画や歌が溢れていると思う。
そんな傷の舐め合いみたいな現代で違和感を感じている人には、「空中庭園」はお勧めしたい。
映像表現としては個人的にちょっといただけないところもあったけれども、元の小説なのか(まだ読んでいないので)、脚本がよかったのか、いずれにしても誰も言わないことをズパッと言った物語だと思った。
親を憎むことなんて、そんなにおかしいことじゃない。人との関係なんて、近ければ近いほど、濃くて激しい感情が交差する。「普通」が何かという定義は難しいが、その普通から外れることを優しく認めてあげようという今の社会の風潮にも、私はどこか落とし穴があると思っている。トラウマを持つことはそれが強かれ弱かれ、別に異常なことでもなんでもなくて、それこそ「普通」のことだと思うのだ。
だからこそ、前日に見た「やわらかい生活」(原作は絲山秋子の「イッツオンリートーク」)には全然共感できなくて、以前見た映画ではいい女優だなと思った寺島しのぶも、ただの我まま女にしか見えなかったのだった…。
残念。舞台となった蒲田の町は私も大好きなんだけどね。
くたびれた安物のピンクのコートはママの理想の現実そのままで、なんだか薄っぺらくてさみしいけれど、でもそれでもパパの言うところの愛はそんな甘いピンク色のようなもので、それはそれで悪いものなんかじゃなく、この家族をちゃんと繋いでいたりするのだ。決してママの理想だった完璧なものではなくても、それでもいいじゃないか、と。
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