2011.05.31 Tuesday

『無能の人』を売りに行った僕は、すごく「無能の人」だと思った。

 初めて「まんだらけ」に漫画を売った。地震のあと、ずっと床に平積みにしていた漫画を、元のように本棚の上に積み上げる気にはなれず、ちょうど金にも困っていていたので売ろうと思った。割と愛着の薄い本をbook offに宅急便で送ってみたら、2箱で2000円くらいだった。そんなモンなんだろうなとは思いつつも、ちょっと悔しい。やっぱり漫画は「まんだらけ」に売ったほうがいいだろうなと思って調べてみると、宅配買取というやり方もある。でも、いい機会なので、一度は中野の本山に行って買取の現場を見てみたいと思った。
どのくらいで買うのかわからなかったけれども、「まんだらけ」のHPでどんな漫画がどのくらいで売られているのか、買われているのかは検討がついた。とりあえず試しに、つげ義春、つげ忠男、花輪和一をスポーツバックに20冊ほど入れて持って行ってみた。
本当にいい経験だった。
中野ブロードウエイの3階に行くと、エスカレーターのすぐ横に買取コーナーがある。受付の女の人が、「買取ですか?」と元気よく訊いてくる。「漫画です」と答えると、「本21」と書いた番号札を渡された。ここには7つほどのレーンがあって、腰丈ほどの棚にレールがしいてある。そこに70センチ四方くらいの木の板を置いて、その板はレールの上を滑るようにしてある。各レーンには人が順番に並んでいた。スーパーのレジみたいだ。それぞれ、持ってきたものを板の上に積んでいく。僕の後ろには「超合金」のモデルをたくさん積んだ人がいたし、となりのレーンでは中年のお客がちょっとエロな漫画を積んでいた。
僕の番が来ると、30歳くらいの細身の青年が次々と漫画を見定めていく。バーコードの付いている本はそれを読み取ると、オートマチックに買取価格が出てくるようだ。古いものは書籍のコードを打ち込んでいく。しばらくするとその青年が、7750円になりますと告げた。その後モニターを見せてくれて、「これは100円、これとこれは200円です。、、、」。僕は少しがっかりしたけれども、買取というのはそんなモノなのだな、と思った。ここで売られている売値の4分の1から5分の1の値段だ。2000円と言われたものは、ここでは8000円くらいで売られるのだろう。
つげ義春の漫画にはずいぶんと思い入れがあった。学生のころとても衝撃を受けたし、その後も新しいものが出れば買い続けた。初めて見たつげ義春の漫画は、その頃の友人が『ガロ』の切り抜きをサランラップか何かで覆った『ねじ式』だった。僕にとっては漫画とアートと『限界芸術』と映像がつながった瞬間だった。つげ忠男は、そのつながりで買ってみて、これもまた独特の世界だと感心して、いくつか求めた。

『無能の人』は竹中直人が映画にした。僕は『石を売る』という一遍が好きだった。河原で石を集めて、その形が少し珍しかったり、極稀に珍品が見つかると高く売れる。主人公にはそんな「石売り」がとても魅力的に思われた。何しろ元手はかからず、拾ったものを並べているだけで売れる。そんな妄想が主人公に広がる。
もちろん、石売の世界はそれなりに厳しい。拾ったものがすぐに売れるような簡単なものではない。高値の付きそうな珍品を得ようとすれば、それなりに遠征もしなければならない。多摩川あたりで石を探しても、売れるものなどまずでない。

そんな、『石を売る」が好きだった。まさに「無能の人」が考えそうなことだな、と思った。
そんな『無能の人』を売りに来た僕は、ものすごく無能の人間のような気がして、うっすら死にたくなった。





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