読み進むたびに「今」が照射される
9月25日にようやく読み終えた。この講義集は付箋を貼るときりがない。
114頁に「水俣病の三つの責任」という項がある。ここでの指摘は、その後の公害病はもちろん、原発事故にも確実に共通する。
第一は「起こした責任」
これはもちろん、有機水銀を大量に放出した加害企業にある。有機水銀という人口毒を海に流し続ければどうなるのか? 具体的な被害が出ても尚、放出を止めなかったばかりか、原因も病因も隠蔽し続けた責任は重い。
第二は「拡大した責任」
起こしてはならいことを起こしてしまった場合、次に取るべきは「被害を最小限に食い止める責任」であった。しかし、チッソの対応は全く正反対であった。
第三は「救済する責任」
この項での原田さんの「病因物質」と「原因」との違いの指摘が興味深い。ネコ実験などを経て原因は魚だということが解った。その時に行政は「原因がわからない」と言った。解らなかったのは「原因」ではなくて「病因」だったと指摘する。「もっとわかりやすく言いますと、仕出し弁当で食中毒が起こったわけですよ。そしたら「原因」は「仕出し弁当」なんです。食品衛生法によればただちに、販売はもちろん禁止です。〜そしてただちに営業停止です。だから原因が魚だとわかった時点で、そういう措置を本当は知事が取らなければいけなかったんです。水俣病の場合、「仕出し弁当が原因」とわかったのに、「いや、仕出し弁当の中にはいろいろ入っています。天ぷらも入っているし、刺身も唐揚げも入っている。どれが原因かわかりません」といって売り続けていたようなものです。」こうした対応が、有機水銀流出の停止を遅らせ、被害を拡大し、水俣病の救済を遅らせた。その後の悪名高い「認定制度」の歪みも医学を医学として機能させなかった。つまり救済のための医学ではなくて、認定のハードルを上げることに貢献する医学に変質する。
これらのことは、必ず原発事故の補償の際に起こってくると思う。健康被害や農産物、海産物の被害、引越し費用や家財道具の補填、更に精神的な被害と事故との因果関係を証明するために、多くの裁判も起こるに違いない。その時に行政や医学は、「被害者救済」のために機能するだろうか?
また、第9回「水俣病における食品衛生に関わる問題」を講義した津田敏秀さんの明快な指摘が痛切である。「水俣病は食中毒事件なのです」という前提に考えると、これまでの食中毒事件では、「未認定の食中毒患者」というのはいない。一人の単位まで正確に統計に残る。しかし、熊本県も鹿児島県も水俣病患者を食中毒として届けてはいない。唯一の例外は「カネミ油症事件」で、これは水俣病の前例が研究班の同一人物によって輸入されたに違いない、という。原田さんの指摘にもあったように、食中毒事件として届け出ていれば、その後の患者の複合的な症状も当然のように中毒症状として救済されたはずだ、と指摘する。
第11回「胎児性水俣病をめぐる問題」では原田さんが次のように指摘している。「〜医学に限ってみてもまだ残された、問題がたくさんあります。〜ひとつは微量汚染の問題です。どのくらいの微量汚染であったら、どういう影響が生体に出るのかという影響の限界の問題はまだ解っていないんです」。その次が安全基準の問題だという。その計算方法を示している。体重50キロの人が1日平均90グラムの魚を摂取したとして、有機水銀の半減期が70日。体重50キロの人に1ミリの有機水銀がとどまったら発症する(このデータは新潟水俣病から得られている)。この安全値をとって10分の1で0.1ミリグラム。体にとどまらないように70日と90グラムをかけて0.4ppmという数字が出てくる。しかしこれらの基準となった数値はあくまで仮説に過ぎず、個体差は考慮されていないし、朝から魚丼を食べていた漁民が1日90g程度であるはずがない。また、子どもや赤ん坊がどうなのかといった基準はない。
水俣を経験した日本が取るべき態度は、こうした微量汚染のデータや、安全基準のデータを世界に先駆けて収集し、公開すべきであった、と指摘する。また、新潟水俣病では胎児性患者が一人しか生まれていないという。これは妊娠がわかった時点で「産まないように指導した」結果であって、それが「水俣病から学んだこと」だとされた。
胎児性水俣病患者と長年向かい合ってきた原田先生が、医学部から福祉学部に転出した理由が少しわかったような気がする。
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