2015.07.30 Thursday

戦後70年にこそ、総論やダイジェストが重要だと思う

『天皇と軍隊』

監督:渡辺謙一

配給:きろくびと 2009年 フランス 90

 岩波書店の渡辺さんから案内を頂いて観てきました。88日からポレポレ東中野で公開されます。2009年にフランスで制作された映画です。この映画のこのタイミングでの公開は、とても意味があると思いました。先週観た『沖縄 うりずんの雨』でも同じように感じたのですが、戦後を概観できる作品は重要だと思います。僕のように、ドキュメンタリー映画やテレビ番組を好んで観ている人にとっては、特別な情報があるわけではありません。これまでに観てきたことを再確認しているような印象でした。僕らはこのところ、もっぱら各論の、さらに細部の描写など着眼して作者の主張を読み取ろうとしてきた傾向があると思います。もちろんそれは重要です。他方で戦後日本の総論として、あるいはダイジェスト的にまたはエッセンシャルに見せてくれる作品は、大枠をどのように捉えるかという指針を示してくれます。総論を90分でまとめるわけですから、その総論の切り口にも作家性は読み取ることができます。総論だからといって平板なわけではありません。

 『天皇と軍隊』の場合は、憲法1条と9条の関係です。終戦後の天皇制の護持と軍備の放棄は、乱暴に括ればワンセットになってGHQの方針に筋道をつけた。よく知られているように、マッカーサーは天皇陛下のポツダム宣言受諾が、驚くほどの浸透力で南洋や中国での日本軍の武装解除と従順な軍の行動を促したことを知り、「天皇制」の護持をGHQの戦後日本の民主化政策に利用します。他国の要請もあった天皇陛下の戦争責任はマッカーサーの判断で免責されます。その後の朝鮮戦争による状況の変化や、サンフランシスコ講和条約の締結など、今日の自衛隊につながる警察予備隊の経緯や、沖縄の基地存続の目論見なども、描かれた通りだと思います。そのことが現在に至る曖昧さと解釈の可能性を残したという指摘もその通りでしょう。この切り口はまさに現在に有効だと思います。時代の流れの中で、国内外に大きな動乱が起きるとその都度問題視されながら、決して決定的な決断をしてこなかった「つけ」が未だに亡霊のように日本を覆っている。そういうことをあらためて考えさせられました。

 

 上映後のトークで金平茂紀さんが語っていた、昭和天皇のインタビュー映像は、「週刊金曜日」の連載「1937」(辺見庸 710日)で取り上げていた。 「戦争責任」を問われて「そういうことばのあやについては〜」と言ってしまったこと。原爆投下を「遺憾だが〜やむを得ないこと〜」と答えてしまったこと。既視感を覚えながら観ていました。

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